sign.png

所長メッセージ:

「新しい酒は新しい革袋に」—公益法人化で何が変わるか

公益財団法人日独文化研究所 所長 大橋良介

本研究所は昨年(二〇一四年)四月に、それまですでに施行され申請期間五年を設定されていた「公益法人制度改革関連3法案」に則り、「公益財団法人」体制に移行した。昨年五月二七日にNHK番組「クローズアップ現代」で、「検証 公益法人改革」が放送されたので、http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3503.htmlすこし引用しておこう。この放送の視聴率は9%だったから、非常に高いとはいえないが、まったくの無関心を示す数字でもない。全国で二万四千あまりあった公益法人のうち解散となった法人が約三六〇〇にのぼるとか、行方が分からなくなった資産が百億円にのぼるとかといった報道は、かなり視聴者の関心を呼んだのではないかと思う。全国の財団法人に課せられた「公益法人化」は、存外「世間が見ている」出来事でもあった。

上記の3法案(「一般社団・財団法人法」「公益法人認定法」「関係法律整備法」)が出来た背景には、実体もなく責任の所在も不明な、ないし資産隠しや税金逃れを目的とした悪質な旧公益法人が多く存在し、公益法人が「不祥事の温床」となっていたことが、挙げられる。本研究所のように、長年こつこつと日独の学術交流事業をおこなってきた団体にとっては、公益法人化にともなう種々の体制整備は「しんどい」面もあったから、その限りでは悪質法人どもの尻拭いをしているという感想も、私の心中に無いではない。加えて上記のNHK番組では、新法のもとで早くも新たに疑惑を招く法人が跋扈しはじめていることが、指摘されていたから、本研究所は正直者が損をみる例なのかと、思わないではない。しかし前向きに捉えることにしよう。新しい公益法人制度は公益事業の透明化と公正化を推進するものであり、それなりに時代の要請と動向を映すものである。そうであるなら、本研究所も時代を先取りする方向で新たに出立することを、決断せずばなるまい。

本研究所が公益法人として申請した諸事業は、差し当たりこれまでと文言において変化していない。


1 日独学術文化に関する研究並びにその助成
2 日独学術文化に関する図書雑誌の編集及び出版刊行
3 日独学術文化に関する講習会、講演会及び談話会等の開催
4 日独学術文化に関する図書及び資料の収集並びに公開
5 日独学術文化に関する研究者の招待、派遣及び交換


 これらの項目それ自体は以前と変わらないが、しかし研究所の運営態勢は、新法人の規程に則ってかなり変わった。諸事業の執行態勢が一新したのである。「新しい酒は新しい革袋に」(「マタイ」九、十七)の語が、想起される。「日独学術文化」という事業領域そのものが、絶えず刷新されゆく新しい酒であり新しい革袋であるから、事業の実質的な中身が不断に進展し変わっていくことは、むしろ当然でもある。


「日独学術文化」の進展変化は、「日独」両国が率先して担い形成していく部分と、世界の激動が両国を巻き込んでいく結果の部分とに、分けられる。たとえば本研究所の「公開シンポジウム」で目下の連続テーマとなっている「ことば」で言えば、世界的な「英語一辺倒」状況などは、世界状況のなかに日独両国が巻き込まれている現象である。逆に、そういった状況をその本質に向けて捉えていく作業は、日独両国で主体的に担うべき部分である。上記の公開シンポジウムのような試みは、たとえささやかな局部的な仕方であれ、世界状況を、そして同時に自分自身を、「変える」試みでもある。

風車に突進した騎士ドン・キホーテは、自分を変えずに世界を変えようとして、壮大に失敗しつづけた。理念の高貴さが、現実からの剥離を生むときもある。しかしそうかといって、羅針盤なき漂流船に乗るわけにもいかない。本研究所は外の世界の変化を内に、内なる変化を外の世界に、転換させゆく小さな革袋となり、新酒を盛りつづける場所でありたいものだと思う。

 (二〇一五年正月)